まず、驚くべき事実から見てみましょう。
芸術は、人類の文明よりも古いのです。
現在確認されている最古の洞窟壁画は、およそ4万年前のものだと考えられています。
フランスのラスコー洞窟、スペインのアルタミラ洞窟、そしてインドネシアの洞窟壁画など、世界各地で同じような絵が発見されています。
そこに描かれているのは、主に動物です。
バイソン、馬、鹿、マンモス。
そして不思議なことに、これらの絵は単なる落書きではありません。
体の動きまで表現された、非常にリアルな絵なのです。
中には、動物が走っているように見えるものまであります。
つまり、旧石器時代の人間はすでに、観察力と表現力を持ったアーティストだったということになります。
ここで重要なのは年代です。
農耕が始まったのは、約1万年前、都市文明が生まれたのは、約6千年前、文字が発明されたのは、約5千年前です。
つまり人類は、農業を始めるよりも前に、国家を作るよりも前に、文字を発明するよりも前に、まず芸術を作っていたのです。
これはとても不思議なことです。
普通に考えれば、人間はまず生きることに集中するはずです。
食料を確保する、住む場所を作る、寒さや危険から身を守る。
そうした問題を解決してから、ようやく文化が生まれると思われがちです。
しかし人類の歴史を見ると、順番が逆なのです。
人類はまず芸術をつくり、その後で文明をつくりました。
つまり芸術は単なる娯楽や贅沢ではなく、人間という生き物の根本に関わる行動なのかもしれません。