政治や経済などの話題で、頻繁に出てくる「新自由主義」という言葉。
誰もが聞いたことがあると思います。
近ごろは新自由主義からの転換、脱却といったことが、政府からも言われる様になりました。
しかし、そもそも新自由主義とは一体何でしょうか?
「批判されてるけど、一体なぜだろう?」「何が失敗だったの?」「ネオリベ?竹中?」
コロナウイルスの流行を契機に、世界中の国々でも、これを見直す動きが活発化しています。
という訳でここでは、新自由主義とは何か、その基本からわかりやすく解説したいと思います。
日本のこれからを考える際にも、非常に重要なポイントです。
新自由主義は、経済政策における考え方のひとつです。
1970年代のアメリカで生まれ、その後世界中に広まっていきました。
英語では、ネオリベラリズム(Neoliberalism)と言います。
アメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権、日本の小泉政権などが、その導入と推進をしたことで有名です。
新自由主義の基本となるのは「小さな政府」です。
なるべく政府の役割を小さくし、市場の自由競争を重んじる、という考えです。
インフラをはじめ、公共サービスを縮小させて、民営化を推進します。
また規制緩和をすすめ、社会保障の拡大には反対します。
つまるところ、「市場原理主義」を基本にした経済思想ですね。
市場原理主義とは、低福祉低負担、自己責任をベースとし、小さな政府を推進する思想です。
政府がなるべく市場に干渉せず放任することにより、国民に最大の公平と繁栄をもたらすと信じるものです。
「福祉による富の再分配は、政府の肥大化をまねき、企業や個人の自由な経済活動を妨げる」
「市場での自由競争により富が増大し、社会全体に行き渡る」
というのが基本的な主張です。
それでは新自由主義は、経済政策として正しかったのでしょうか?
断言できますが、完膚なきまでに間違いです。世界中で格差が拡大していきました。
新自由主義は、大企業や資産家などを優遇して、より富裕化することを良しとします。
それによって投資や消費が上がり、中間層・貧困層の所得も引き上げられ、富が再配分される、という考え方だからです。この理論を「トリクルダウン」と言います。
そして、現実はまったく違いました。
投資や消費は増えず、再配分よりも富の集中、蓄積・世襲化が進みました。
トリクルダウンは机上の空論であり、かつてないほど格差が拡大しただけだったのです。
そして新自由主義を取り入れた国々は、軒並みそれ以前と比べて、成長しなくなりました。
実体経済ではなく金融経済ばかりが優先され、資本主義は暴走に近い状態に陥ります。
価値基準のすべてがカネで測られ、一切全てを商品化していく「市場システム」です。
つまり新自由主義とは、完膚なきまでの間違いであり、失敗だったのです。
それでは新自由主義が、いかに経済政策として間違っているか、見ていきたいと思います。
新自由主義には、その特徴となるポイントがいくつかあります。
これが見事なまでに、間違いだらけのスペシャル詰め合わせパックです。
これは根本の認識を誤っているためです。それ故に、すべてにおいて間違ったスタンスを取ってしまうのです。
なので新自由主義とは、最強の経済音痴のことである。と言っても過言では無いかもしれません。
まず新自由主義の特徴となるのが、緊縮財政です。
緊縮財政とは、なるべく政府の支出を減らそう、という方針ですね。
これが根本的な間違いなんです。誤った経済観です。
国家の財政は、家計や企業とはまったく違います。
政府の債務の拡大は、悪いことではなく、むしろ国家を発展させる上で必要不可欠なんです。
それにより貨幣が供給され、国民が豊かになるからです。
実体経済への投資そのものだと言えますね。
その逆と言える、新自由主義による緊縮財政を続けると、国はどんどん衰退していきます。
さらに日本の場合、消費増税や社会保険料の増加とセットであり、経済全体に甚大なる悪影響を与え続けています。
新自由主義では、自己責任が基本となります。
小さな政府による緊縮財政なので、政府はなるべくお金を出そうとしません。
そのため国民に対しては、なるべく自分で何とかしてね、というスタンスになります。
これも新自由主義の致命的な間違いです。
国民を救うことこそが、政府の最も重要な仕事だからです。
そもそも、お前ら何のためにいるんだよ?という話ですね。
新自由主義では、公共サービスをどんどん削ります。
インフラ、科学技術、教育、医療、介護、保育。
あらゆる予算を削って、政府の支出を抑えようとするのです。
緊縮財政の真骨頂ですね。
そしてそれらは、改革という号令のもと行われていきます。
「構造改革」「規制改革」「身を切る改革」
様々な名前の改革が、新自由主義によって推し進められてきました。
そして改革とは、つまるところコストカットです。
改革の名の下に、政府の財政出動をカットしていくのです。
公共サービスの削減とセットで、民営化の推進があります。
政府の役割をなるべく小さくして、代わりに民間に事業を託すのです。
国鉄民営化、郵政民営化、水道の民営化などが代表的です。
非正規公務員の拡大も同様ですね。
そして民営化を推進すると、定員の削減、事業の削減、料金の値上がりが起こります。
つまり公共サービスやインフラが、どんどんと劣化していくのです。
結果的に、国民生活が悪化していき、経済は成長しなくなります。
基本的に、公共インフラサービスを民営化するべきではありません。
規制緩和とは、様々な事業における、政府による規制を縮小することです。
民営化の推進もまさにそうです。
そして規制緩和を象徴するのが、労働者派遣法です。
2000年代の小泉政権を中心として、派遣事業が大きく緩和されていきました。
それまで禁止されていた、製造業や医療などにも認められるようになります。
そして以後、日本の企業において、派遣による非正規雇用が急増していったのです。
それは規制緩和という建前による、人件費の削減であり、労働者を安く使うための悪法に他なりません。
ハイリスク・ローリターンで、経済的に追いつめられる労働者が増加しました。
かくして格差や貧困が、もの凄い勢いで広まっていったのです。
新自由主義は、グローバリズムを推進します。
グローバリズムとは、多国籍企業が国境を越えて、全世界に市場原理主義を広めていこうとする運動です。
市場主義経済を世界中に拡大させ、多国籍企業への規制を、どんどん緩和していきました。
外国との貿易が悪いという訳ではないですが、やたらと規制を無くしていくのは好ましくありません。
例えば、外国の肉が安いからと言って、規制をせずにどんどん輸入すれば、日本の畜産が衰退してしまいます。
つまり、国外との交易を行っていく際、まず国内産業を守ることを前提に据えて、適切な規制を行なっていくべきなのです。
ところが新自由主義では、国内産業を守ることより、規制を緩和して外国の企業が活動しやすくすることを優先します。
結果的に国内経済が衰退するだけなのですが、新自由主義の思想では、それによって経済が成長すると信じているのです。
また、このグローバリズムの世界的な推進により、多国籍企業はさらに巨大化していきました。
新自由主義によるグローバリズム。
それにより資本主義の暴走は、歯止めが効かない状態となりました。
しかし近年、この状況に変化がもたらされます。
新自由主義による、理不尽な格差に抗議するデモや運動が、世界中で拡大し始めたのです。
アメリカにおける「オキュパイ・ウォールストリート」、フランスにおける「イエロー・ベスト運動」などが代表的です。
そして大きな契機が、2020年に始まった新型コロナウイルスの流行でした。
詳しい要因はわかりませんが、これにより今までにない動きが世界中で起こり始めます。
主要各国の政治において、新自由主義的な緊縮やグローバリズムを転換する動きが、一斉に活発化し始めたのです。
アメリカやドイツは、新自由主義から積極財政へと大きく舵を切りました。経済も良く成長しています。
日本においても、新自由主義からの転換が主張されだしました。
緊縮財政から積極財政への転換、格差の是正、労働環境の改善。
こうした動きが世界規模で、かつてないほど盛り上がりを見せています。
いかに新自由主義から脱却していくか、それが世界中で問われているのです。
新自由主義とは何か、わかりやすく解説しました。
それは「小さな政府」を基本とした、経済政策における考え方のひとつです。
自己責任を基本として、緊縮財政、公共サービスの削減、民営化の推進、規制緩和、グローバリズムなどを特徴とします。
これらで国家運営をすすめると、格差と貧困が拡大し、経済が停滞します。
そして世界中において、この新自由主義から脱却しようという動きが起きています。
まさに21世紀における、非常に重要な転換点であると言えるでしょう。