美術における抽象表現とは一体何でしょうか?
そのイメージは一体何を表現していて、何を伝えようとしているのか。
ここでは、そんな抽象表現を、わかりやすく解説してみました。
その特徴から歴史的な時代背景、代表的な芸術家とその作品、またそれらにまつわるエピソードまで紹介していきます。
抽象表現の、その本質的な意味が理解できますよ。
20世紀の美術において、著しく現れ始めたのが抽象表現です。
抽象表現とは、具体的な対象を描き写さない表現方法のことです。
カンディンスキー、モンドリアンなどがその起こりだと考えられます。
その後アメリカを中心として、抽象表現主義という一大芸術運動が起こっていきました。
20世紀ほどの激動と変化の時代はありません。
人類文明そのものが大きく発展したと同時に、かつてないほど破滅的な危機を生み出しました。
芸術の分野にあっても、その変化はかつてないものです。これまでにない、前衛的なものが多く生み出されていきました。
写真や映像技術といった、各種メディアの発達もあり、芸術に求められるものが大きく変化し始めたのです。
科学技術の発達によって、かつてない繁栄が築かれる一方で、二度の世界大戦と核兵器の開発が起こりました。
1940年代頃からは、アメリカのニューヨークを中心に、抽象表現による芸術運動が盛んになります。
これは第二次大戦の戦火を避けて、ヨーロッパから大勢の芸術家たちが移住してきたのが要因です。
美術家、音楽家、建築家、デザイナーなど多くの文化人がやってきたことで、アメリカにおける芸術活動が先鋭化したのです。
そして、その象徴的な芸術運動である抽象表現主義は、パリに変わりニューヨークを芸術の中心地としていったのです。
代表的な芸術家には、ポロック、ニューマン、ロスコなどがいます。
20世紀は、アメリカの覇権の時代だったと言えます。政治、経済、文化、あらゆる面でその中心となっていきました。
美術の抽象表現を語る上で、心理学の発展と無意識のイメージがキーワードです。
20世紀に入ってから、心理学が新たに発展しました。フロイトやユングがその代表的な権威です。
それは芸術の分野にも広く影響し、芸術家たちは人の無意識の深層にあるものを表現しようとしました。
それらを具象で表現しようとしたのがシュールレアリスムで、抽象で表現しようとしたのが抽象表現主義です。
フロイトは個人の自我としての無意識を、ユングは人間全体としての集合的無意識を、それぞれ注目して研究を行いました。
現代美術の抽象表現は、人間の無意識を抽象的にイメージ化したものです。そして面白いのは、それらが原始美術によく似ていることです。古代から現代に至るまで、人の心の本質は変わらないということでしょう。
抽象表現主義は、1940年代頃からアメリカのニューヨークを中心に起こった芸術様式です。
ポロックやロスコといった、アメリカの現代美術を代表する芸術家たちが生まれました。
しかし、その以前から抽象表現を行っていた者たちもいます。カンディンスキーをはじめ、クレーやミロといった芸術家がそうです。
そして彼らに共通するのは、無意識の神話的イメージを表現していることです。
そんな、抽象表現を代表する芸術家たちを、その作品と共に見ていきます。
ワシリー・カンディンスキーは、抽象表現の先駆者であるロシアの芸術家です。主にドイツを拠点に活動を行いました。
美術史においては、モンドリアンやマレーヴィチと共に、抽象絵画の創始者とされています。
カンディスキーは、「コンポジション」シリーズをはじめ、鮮やかでポップな抽象絵画を数多く生み出しました。
またバウハウスの美術学校で、教鞭も取っていました。
カンディンスキーやクレーの作品は、ナチスに退廃芸術とされました。
1911年に、カンディンスキーとフランツ・マルクが中心となって起こした芸術グループが「青騎士」です。また、彼らの創刊した芸術年刊誌のタイトルでもあります。
パウル・クレーは、抽象表現の先駆者であるスイスの芸術家です。
表現主義、キュビスム、シュールレアリスムを含む芸術運動に影響され、独自のユニークな絵画表現を行いました。
カンディンスキーの起こした芸術グループ、「青騎士」の一員でもありました。
また、カンディンスキーと同じく、バウハウスの美術学校で教鞭もとります。
クレーの作品は、何者にもとらわれない、自由で子供のような視点に満ちていました。
乾いたユーモア、個人的な気分や信念、音楽性などが感じられます。
その後の、多くの芸術家にインスピレーションを与えました。
クレーの作品は、ポップさの中にユーモラスな遊び心も感じられます。
ナチスドイツは、様々な統制と検閲を行いました。それは美術の分野も例外ではありませんでした。そして、晒しものとしての「退廃芸術展」、見本としての「大ドイツ芸術展」を1937年に開催します。クレーやカンディンスキーの作品も押収され、退廃芸術として展示されました。結果的に「退廃芸術展」の方が、はるかに多い入場者数を記録しています。
ジョアン・ミロは、抽象表現の先駆者であるスペインの芸術家です。
有機的なフォルム、ポップで激しい色使い、あふれる生命感が特徴的な抽象表現を行いました。
ミロもクレーと同じく、型にはまらない独自のスタイルを確立しています。
絵画だけでなく、陶器、壁画、彫刻なども手がけ、パブリックアート作品も多く生み出しています。
ピカソやダリと並ぶ、スペインの現代美術を代表する芸術家です。
ミロは大阪万博において、『無垢の笑い』という壁画作品を制作しています。
スペインのマヨルカ島は、芸術家ミロが生涯を通じて密接に関わった場所です。制作拠点として定住して、アトリエを構えていました。この島の美しい自然や風土から、インスピレーションを得ながら創作を行いました。ミロの建てたアトリエは、現在は美術館の一部として見学することができます。
ジャクソン・ポロックは、抽象表現主義を代表するアメリカの芸術家です。
アクション・ペインティングという絵画技法を生み出し、強烈な抽象絵画をつくり上げました。
キャンバスを床に置き、ドリッピングやポーリングという技法を用いて、荒く激しく絵の具を撒き散らすスタイルでした。
ポロックは、ピカソやミロの作品に影響を受けていたとされます。
また、床に置いて描くスタイルは、インディアンの砂絵から影響されたのではないかと言われています。
無闇やたらに絵の具を飛ばしたのではなく、構成を考え計画の上で制作をしています。
マーク・ロスコは、抽象表現主義を象徴するアメリカの芸術家です。
カラーフィールド・ペインティングという手法を用いた作品で有名です。
色面構成に基づくその様式は、縦長の画面に二分割や三分割で、シンプルに色が配置されたものです。
大きなキャンバスに描かれた、その極めてシンプルな色彩は、見る者を包み込むように働き、瞑想的な気分をもたらします。
ロスコは、哲学者のニーチェからも大きく影響を受けていたそうです。
ロスコは、フロイトやユングの心理学理論をよく研究していました。そして現代における空虚さは、神話が不足していることが起因していると考えます。自らの芸術で現代の神話をつくり出すことで、人々の無意識のエネルギーを解放することを目指します。そこからロスコ独自のスタイルが生まれていきました。
美術における抽象表現を、わかりやすく解説しました。
それは、20世紀に入って起こった、無意識における神話的イメージの表現でした。
その背景には、心理学の発展と普及が大きく影響しています。
そして1940年代から、アメリカのニューヨークを中心として抽象表現主義が起こっていきました。
こうして抽象表現という芸術様式は、現代美術において欠かすことの出来ない存在となっていったのです。