芸術は人間が社会を形づくる上で重要な働きをしてきたと考えることができます。
まず人間は他の多くの動物と違って、大きな集団を作る生き物です。
数十人、数百人、時には何万人という人々が一つの社会を作り、協力しながら生きています。
しかし、ここには大きな問題があります。
人間は、血縁のない相手とも協力しなければならないという点です。
たとえばチンパンジーの群れは、基本的に小さな集団です。
しかし人間は、見知らぬ人とも協力します。
同じ国の人間、同じ文化を持つ人間。
そうした「共通の意識」があるからこそ、社会が成立しています。
では、その共通の意識はどこから生まれるのでしょうか。
ここで重要になるのが、芸術と物語です。
歌、踊り、神話、儀式。
これらはすべて、人々の感情を共有させる力を持っています。
たとえば古代の祭りを想像してみてください。
人々が集まり、同じ歌を歌い、同じ踊りを踊る。
その瞬間、個人だった人々は一つの集団になります。
現代でも同じです。
コンサートで同じ音楽を聴くとき、映画を見て同じ場面で涙するとき、そこには感情の共有が生まれます。
心理学では、こうした状態を集団アイデンティティと呼びます。
つまり芸術は、人々の心を結びつけ社会そのものをつくる力を持っているのです。
そして神話もまた芸術の一種だと言えるでしょう。
神話は、世界の意味を説明する物語です。
人はどこから来たのか、なぜ太陽は昇るのか、なぜ人は死ぬのか。
こうした問いに対して、神話は物語で答えました。
そしてその物語は、絵画や彫刻、音楽、儀式など、さまざまな芸術の形で表現されてきました。
つまり芸術は、世界を理解するための方法でもあったのです。
人類は芸術を通して世界を説明し、意味を作り、社会を形作ってきました。
だからこそ芸術は、何万年ものあいだ人間の文化の中心にあり続けているのかもしれません。