ギリシア神話は、いつの時代においても語り継がれてきました。
西洋世界においては、聖書に次いで文化的•精神的な基盤となっています。
それは、人々にとって普遍的な価値を持っているからです。
ここでは、そんなギリシアの物語を紹介したいと思います。
とても面白味に溢れたエピソードたちです。
それらが語るものは、様々な形のメッセージであり、知恵の物語です。
その魅力や面白さを感じてみてください。
僕は大学で西洋史を専攻していました。西洋の文化や歴史なら任せてください。
ギリシア神話は、古代ギリシア地方において信仰された神話体系です。
非常に多くの神々が登場し、様々な物語をつくり上げています。
また神々だけでなく、人間の英雄も登場して活躍します。
基本的に自然崇拝の多神教です。
登場する神々はみな個性的で、その性格も非常に人間味を感じさせます。
ギリシア神話には、とても多くの神々が登場します。
彼らは特徴も性格も様々で、実にバラエティー豊かです。
また英雄をはじめ、人間たちも数多く登場します。
オリュンポスの神々を中心として、様々な物語が語られています。
巨体を誇るティタン神族のアトラスは、
ティタノマキアにおいて、オリュンポスの神々が最も苦戦した相手でした。
そこでゼウスは、戦いが終わった後も特別な罰を与えます。
それは世界の西の果てで、天空を背負って支え続けるというものでした。
プロメテウスは人間に火を与えた神です。ティタン神族のひとりになります。
あるときゼウスを騙して、人間の味方をしました。怒ったゼウスは、人間たちから火を取り上げます。
するとプロメテウスは天界から火を盗み、また人類に与えたのでした。
人間たちは火を利用して文明を築きますが、同時に武器をつくり出して戦争を始めてしまいました。
これを見てゼウスは怒り、プロメテウスを捕らえると拷問を与えます。
それは山頂に磔にされ、生きたまま肝臓を大鷲についばまれ続ける、というものでした。
長い年月の後、旅の途中のヘラクレスが通りかかり、この大鷲を弓矢で射抜きます。
これによりプロメテウスはようやく解放され、その後ゼウスとは和解したとされます。
プロメテウスを罰したゼウスは、人間にも罰を与えることにしました。
そして鍛治の神であるヘパイストスに命じて、「女性」というものをつくらせます。それまで人間には男性しかいませんでした。
そして女神たちに似せた最初の女性「パンドラ」が完成します。
ゼウスは彼女に「絶対に開けてはいけない」と言い含めて箱(もともとは甕)を渡しました。
そしてパンドラは、プロメテウスの弟エピメテウスに贈られ、2人は結婚します。
しばらく平穏が続いたものの、あるときパンドラが好奇心に負けて、箱のふたを開けてしまいます。
すると箱からは、人間の苦しみや死の原因となる、ありとあらゆる厄災が溢れ出しました。
これ以降、人間たちはその災いに苦しめられる様になったとされます。
ただ箱の底には、ひとつだけ飛び出さず残っているものがありました。
それは「希望」でした。
この希望が残されたため、人間は苦しくても生きていけるとされます。
オリュンポス十二神のひとりであり、大地と豊穣の女神がデメテルです。
あるとき愛娘のペルセポネが、冥府の王ハデスにさらわれてしまいます。
そして実は、ペルセポネに恋をしたハデスのため、ゼウスが計画したものだと知ります。
デメテルはゼウスのもとへ行き、激しく抗議をしました。
ゼウスは「冥府の王ハデスなら、夫としても相応しいだろう」と言います。
これを聞いたデメテルは、さらに激しく怒りました。
そして女神の仕事を放棄して、ペルセポネを取り戻すため、放浪の旅に出てしまいます。
デメテルがいなくなったことで作物が育たなくなり、大地は荒れ果ててしまいました。
困ったゼウスは、オリュンポス十二神のヘルメスを、使者としてハデスのもとへ送りました。
これにより、ペルセポネを地上へと帰還させます。
デメテルは大いに喜び、また仕事に戻ると、大地は実りを取り戻しました。
女神が隠れてしまい、世界が荒涼とする。これは日本神話のアマテラスの物語とも類似しています。
あるときアッティカという土地の支配権を巡り、女神アテナと海神ポセイドンの間で争いが起こりました。
協議の結果、それぞれがアッティカの人々に贈り物をして、より良い方がこの土地の守護神となることが決まります。
そして、オリュンポス十二神同士の勝負が始まりました。
ポセイドンは三叉の槍トライデントで地を打ち、塩水の泉を湧かせました。
一方のアテナは、オリーブの木を生じさせました。
この2つを比べたところ、オリーブの方が良いと決まり、勝負の軍配はアテナに上がります。
かくして土地はアテナのものとなり、アテナイという都市が築かれました。
これが現在のギリシアの首都アテネの由来です。また有名なパルテノン神殿は、女神アテナを祀ったものです。
古代ギリシアの栄えた地中海地域は、暑く乾燥した気候です。果樹栽培に適しており、古代からオリーブやワインが主要な生産物でした。特にオリーブは交易品として重要で、ギリシアの繁栄を支えました。またオリーブは、女神アテナから贈られた聖なる木とされています。
ギリシア神話の中でも最も有名な、無敵の英雄がヘラクレスです。
ゼウスと人間の女性との間に生まれました。
その強さはオリュンポス十二神に匹敵するほどで、桁違いのものです。
神々の大戦争ギガントマキアにも参加して、オリュンポス十二神を助けました。
ヘラクレスは様々な冒険を乗り越えて、数々の功績をあげていきます。
それがヘラクレスによる12の難行です。
数々の猛獣を生捕りにし、ヒドラや巨人といった怪物たちとも戦いました。
死後は天に登り、ヘラクレス座となりました。
ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸を隔てるジブラルタル海峡。これはヘラクレスがつくったとされています。あるとき目的地へ向かう途中、巨大な山脈がありました。近道をしようと思ったヘラクレスは、怪力で山を真っ二つにしました。その時に大地も裂けて大西洋と地中海がつながります。この神話にちなみ、ジブラルタル海峡にある岩山は、「ヘラクレスの柱」と呼ばれています。
あるとき森の精霊エコーは、ナルキッソスという美少年に恋をします。
しかしエコーは女神ヘラの怒りを買って、他人の言葉を繰り返すことしかできない状態でした。
エコーはナルキッソスに近づきますが、会話が成り立たず、退屈だと見捨てられます。
悲しみのあまりエコーは身体を失い、声だけの精霊となってしまいました。
これを見て怒ったのが、罰を与える神ネメシスでした。
そしてナルキッソスが、ひたすら自分だけを愛する様にします。
ナルキッソスは水を飲もうとすると、水面に映る自分の顔に恋をしてしまいます。
そして水辺から離れられなくなり、痩せ細って死んでしまいました。
ナルシストの由来として有名な物語です。またエコーも、反響の由来として知られます。
テセウスは、怪物ミノタウロス退治で有名な英雄です。
アテナイの王族の生まれですが、ポセイドンが親である半神半人だという説もあります。
テセウスもまた、数々の冒険を乗り越えて功績をあげました。
最も有名な冒険譚が、クレタ島のミノタウロス退治です。
クレタ島では、迷宮に封印されている怪物ミノタウロスへ、生け贄として少年少女が毎年のように捧げられていました。
これに憤りを感じたテセウスは、自ら生贄の一人となり、クレタ島に乗り込みます。
また、ミノタウロスが幽閉されているラビリンスは、内部が複雑な迷路になっていました。
しかしテセウスは、アリアドネという娘からもらった糸を使い、これを攻略します。
そして、ミノタウロスを見事に打ち倒したのでした。
地中海に浮かぶ、ギリシア最大の島がクレタ島です。古代ミケーネ文明が栄えた場所で、ギリシア神話発祥の地とも考えられます。たびたび神話の中でも登場し、主神ゼウスが生まれ育った場所でもあります。また現在では、観光地としても人気があります。
ピグマリオンはキプロス島の王であり、彫刻家でもありました。
現実の女性に失望していた彼は、理想の女性の彫像をつくり、ガラテアと名づけました。
やがてピグマリオンは、その彫刻に恋をしていきます。
そして彫像から離れられなくなり、次第に衰弱していきました。
その様子を見たアフロディーテは同情し、彫刻であるガラテアに生命を与えます。
ピグマリオンは喜び、ガラテアと結婚しました。
ミダスは、都市ペシヌスの王でした。
師をもてなしたお礼にと、酒と酩酊の神ディオニュソスから「どんな願いも叶える」と言われます。
そこでミダスは「自分が触れるものすべて黄金に変わる力が欲しい」と言います。
ディオニュソスは、この願いを叶えます。
そしてミダスが触れるものは、小枝でも石でも、何でも黄金へと変わりました。喜んだミダスは宴を開きます。
ところが、ミダスが飲み食いしようとした水や食べ物まで、黄金へと変わってしまいました。
さらに、ミダスのもとへ駆け寄ってきた娘まで、触れた途端に黄金へと変わりました。
飢えと乾きで絶望したミダスは、ディオニュソスに祈ります。
そこでディオニュソスは、川で身体を洗い清めなさいと告げます。
ミダスが言われた通りにすると、ものを黄金へと変える力は消え、元に戻りました。
そして以後、この川では砂金が取れるようになったと伝えられます。
オリーブと並び、古代ギリシアの重要な交易品がワインです。古くからブドウの栽培によるワインの生産が盛んで、古代ギリシア繁栄の要素のひとつとされます。ここから地中海全体に、ワイン文化が広まっていきました。
ペルセウスは、ゼウスと人間の女性の間に生まれた、半神半人の英雄です。
あるとき怪物ゴルゴン三姉妹のひとり、メデューサの討伐を命じられました。
ゴルゴンは頭髪が蛇になっている怪物で、その姿を見た者は石になってしまいます。
ペルセウスは、女神アテナと伝令神ヘルメスの助けを借ります。
青銅の盾や姿を消せる兜、空を飛べるサンダル、アダマスの鎌といった装備を授かりました。
これらの装備を駆使して、見事メデューサを討ち取ったのでした。
メデューサの首は石化の能力を保持し続けており、ペルセウスのその後の冒険でも、度々利用されました。
トロイア戦争は、ホメロスの叙事詩「イリアス」に語られる、ギリシャとトロイアとの戦争です。
この戦争のきっかけは、女神たちによる些細な争いでした。
あるときオリュンポスで結婚式が開かれますが、そこに招待されなかった不和の女神エリスは怒り、
「最も美しい女神へ」と記された黄金のリンゴを、宴の席に投げ入れます。
これにより、ヘラ、アテナ、アフロディーテの3人の女神が争いを始めました。
ゼウスは争いを収めるため、リンゴが誰にふさわしいかの判断を、トロイアの王子パリスに委ねました。
そして、パリスはアフロディーテを選びます。
その結果パリスは、スパルタ王の妃ヘレネーを与えられました。
これに怒ったのが、スパルタ王の兄でミュケナイの王であるアガメムノンです。
アガメムノンは遠征軍を組織すると、トロイアへと進軍しました。
こうして、トロイア戦争が始まったのです。
ホメロスの叙事詩『イリアス』の主人公でもあるのが、英雄アキレウスです。
女神テティスと、人間の王の間に生まれました。
トロイア戦争においてギリシア側で戦い、獅子奮迅の活躍を見せます。
たったひとりで形成を逆転させるほど、戦場において無敵の強さを誇りました。
あるとき、ギリシア側の総大将アガメムノンの横暴に腹を立て、アキレウスは戦線を離脱してしまいます。
これにより、ギリシア側は不利に陥りました。
そこでアキレウスの友人パトロクロスが出陣しますが、トロイア最強の戦士ヘクトルに討たれます。
これに深く嘆いたアキレウスは、戦場に戻ります。
そしてヘクトルを倒し、仇を討ったのでした。
しかし戦争に勝利する直前に、唯一の弱点である踵に矢を受けます。
その傷がもとで、アキレウスは命を落としたのでした。
ギリシア軍はトロイアの城壁を破れず、戦争は長引き膠着していました。
その中でギリシアの英雄オデュッセウスは、ある作戦を考案します。
ある朝、戦場からギリシア軍が消え、巨大な木馬が残されているのをトロイア軍は発見しました。
そしてギリシアがあきらめて退却したと考えたトロイアは、木馬を戦利品として持ち帰ります。
これこそがギリシアの作戦でした。
木馬の中にはギリシア兵が潜んでおり、それを敵の手によって運ばせたのでした。
夜になり、木馬から出てきたギリシア兵は、トロイアの城門を開け放ちます。
そしてギリシア軍が雪崩れ込むと、トロイアは一気に制圧され陥落しました。
かくしてギリシアが勝利し、トロイア戦争は終結したのでした。
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の主人公が、英雄オデュッセウスです。
トロイの木馬の発案者で、戦争を勝利に導きました。
人間の英雄であり、腕っぷしよりも知恵によって試練を乗り越えるタイプです。
そしてトロイア戦争からの帰還の途中に、嵐にあって流されます。
そこから数々の試練を乗り越えていくことになり、その冒険譚が『オデュッセイア』で語られています。
人喰い巨人、怪物セイレーン、怪物スキュラなどとの遭遇、
神々の妨害による幾度もの遭難、
そうした数々の試練に遭い、故郷に辿り着いたのは、トロイアを出てから10年目のことでした。
ギリシア神話の様々なエピソードを紹介しました。
その物語はとても魅力的で、いつの時代においても語り継がれてきました。
現代においても色褪せないのは、これらが語っているのは、人間の普遍的な精神性だからです。
だからこそ神話の物語は、生き生きとしたメッセージをもたらすのです。
それは、様々な形の人間讃歌だと言えるでしょう。