北欧神話に登場する怪物たちは、まさにファンタジーの原点と言えるものです。
巨人にエルフにドワーフ。
誰もが一度は聞いたことのあるような、有名なものばかりです。
それだけ普遍的な価値や、魅力を持っているということでしょう。
ここでは、そんな北欧神話の怪物たちを、一覧でまとめました。
彼らを詳しく知ることで、現代のファンタジー作品をより楽しめますよ。
僕は大学で西洋史を専攻していました。西洋の文化や歴史なら任せてください。

北欧神話とは何か?
北欧神話とは、スカンディナビア半島、アイスランド、デンマーク、ドイツなどに広がっていた、北方ゲルマン人たちに伝わる神話体系です。
- 北方のゲルマン民族の神話である
- 独特の世界観・宇宙観を持つ
- 荒々しくも勇猛な神々と終末思想
世界の創造から滅亡までを物語る、神々と英雄の伝説です。
中世以降、ヨーロッパ諸国は次々とキリスト教化されていきました。

これに対して、アイスランドやスカンディナビア半島のゲルマン人たちは、10世紀頃までキリスト教化されず、古くからの信仰を残していました。
そして北欧神話は様々な歌や詩、散文の形で後世に残されました。
北欧神話に登場する怪物たち!

それでは、北欧神話に登場する怪物たちを紹介していきます。
巨人族を中心に、様々な種族や生き物が描かれています。
まさに、現代ファンタジーの原点が伺えますよ。
巨人族
神々に匹敵する強大な力を持つのが、ヨトゥンと呼ばれる巨人族です。
ヨトゥンヘイムという世界に住まうとされています。

神々とは敵対関係にあり、衝突を繰り返します。
最終戦争ラグナロクは、神々と巨人族との争いです。
原初の巨人ユミルを祖とし、オーディンはじめアース神族とは、遠いながらも血縁関係にあります。
巨人というより怪物である存在もいます。
また女性の巨人などは、美しい容姿で女神に近い者もいます。
大きさも、人間サイズから途方もない巨体まで様々です。
ユミル

北欧神話における、すべての始まりとなった原初の巨人がユミルです。
世界の始まりには、炎と氷しか存在しませんでした。
その両者が混じってできた霜の中から、巨人ユミルが生み出されます。
このとき、アウズンブラという牝牛も一緒に生まれます。
ユミルは単独で、ヨトゥンの巨人たちを生み出していきました。
またアウズンブラからは、ブーリという最初の神が生まれます。
神と巨人が交わった子孫から、オーディン、ヴィリ、ヴェーという3人の神が生まれました。
彼らはユミルを殺害し、その体を利用して世界を創造しました。
『進撃の巨人』でもお馴染みの始祖の巨人ですね。
ロキ

混沌をもたらす悪戯好きの神であり、変幻自在のトリックスターがロキです。
純粋な巨人族ですが、オーディンと義兄弟の契約を交わしており、アースガルズに神として迎えられます。
狡猾でひねくれた性格で、悪知恵によって様々な混乱をもたらしました。
魔術に長けていて、様々な姿に自在に変身できます。
また、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルという怪物たちを生み出しました。
しかし完全な邪悪という訳ではなく、神々をしばしば窮地から救うこともあります。
バルドルの殺害後は、神々とは敵対することが多くなります。
そしてラグナロクの際には、巨人族を率いてアースガルズに攻め入るのでした。
最後はヘイムダルと相打ちとなって果てます。

9〜12世紀頃にヨーロッパ各地に侵入した、北方ゲルマン人の総称がヴァイキングである。優れた航海術を持ち、各地で略奪を行う一方で、商業活動も盛んに行なっていた。そして各地に植民すると、ノルマン系の王朝が次々と建国された。
フェンリル

神々に災いをもたらすと予言された、巨大な狼がフェンリルです。
とてつもない巨体を持ち、鼻や口からは煙と炎が噴き出しているとされます。
ロキと女巨人との間に生まれました。
不吉な予言とその強大な力から、神々はフェンリルに脅威を抱きます。
そしてフェンリルに嘘をついて騙し、グレイプニルという魔法の縄で拘束しました。
これを成功させたのが軍神テュールでしたが、その際に右手を食いちぎられます。
神々の脅威は抑え込まれたものの、それは最終戦争までの一時的なものでした。
そしてラグナロクにおいて拘束を断ち切ったフェンリルは、オーディンと対決し飲み込みます。
しかしその直後、オーディンの息子ヴィーゼルによって討ち取られたのでした。
ヨルムンガンド

世界を一周するほどの巨大な大蛇がヨルムンガンドです。
その大きさはミズガルズの大陸を一周し、自分の尻尾を咥えるほどだとされます。
フェンリルと同じく、ロキの子どもです。また雷神トールの宿敵でもあります。
神々の脅威となると予見され、生まれてすぐ海に捨てられました。
しかし死なずに成長し、とてつもない巨体を持つ怪物になります。
最終戦争ラグナロクにおいては、大陸に大津波を巻き起こし、そして因縁のトールと対決するのでした。
トールはミョルニルを3度投げつけヨルムンガンドを倒しますが、その毒を浴びせられ自らも倒れます。
己の尾を咥える竜のイメージは、世界中の神話に共通して見られます。ウロボロスとも呼ばれ、永遠性、死と再生、完全性などを象徴します。

神話は心理学とも密接な関係がある。心理学の権威ユングは、人には「集合的無意識」があることに注目した。誰であれ無意識の深層には、神話的な共通のパターンがあるというものである。ユングはこれを元型(アーキタイプ)と呼んだ。
ヘル

北欧神話における冥界の支配者がヘルです。
地下にある死者の世界、ヘルヘイムを治めている女の巨人です。
ロキの子どもであり、フェンリル、ヨルムンガンドとの三兄妹です。
他の兄妹と同じく、ヘルも災いをもたらす者とされ、ニブルヘイムという極寒の世界に追放されます。
その後オーディンから、戦死者以外の死者たちを支配する役目を与えられます。
そしてヘルヘイムという世界を築き、そこに君臨することとなりました。
身体の半分は、青黒く腐っているとされます。
またバルドルを救いに冥府に赴いたヘルモーズと、交渉を行っています。
ラグナロクにおいては、死者の軍団をロキに預けました。
ヘル自身が参加したかどうかは、記述はなく不明です。

スコルとハティ

スコルとハティは、太陽と月を追いかける2頭の狼です。
巨浪フェンリルの子どもたちです。
北欧神話では、太陽と月はそれぞれの神によって運行されています。
これを絶えず追いかけているのが、スコルとハティの2匹です。
スコルは太陽を、ハティは月を追いかけています。
これにより太陽も月も、また登ってはまた沈みを繰り返している訳です。
ラグナロクの際には、この2匹が追いついて、太陽も月も飲み込まれるとされます。
ウトガルザ・ロキ

巨人の都の王が、ウトガルザ・ロキです。
ヨトゥンヘイムにある、ウトガルズという都市を治めています。
強力な幻術の使い手で、また知略にも長けます。
雷神トールの一行がウトガルズを訪れた際に、その幻術によって翻弄しました。
ラグナロクに関する記述は特にありません。
スルト

世界を焼き尽くす、炎の巨人がスルトです。
ムスペルヘイムという炎の世界に住まい、その入り口を守っています。
燃え盛る炎の剣を手にしているのが特徴です。
ラグナロクにおいて、ムスペルヘイムの軍勢を率いて侵攻しました。
彼らの勢いは凄まじく、虹の橋ビフレストは崩れ落ちます。
スルトは豊穣神フレイを打ち倒すと、その炎によって全世界を焼き尽くしました。

北欧神話の主な原典とされるのが『エッダ』という写本である。13世紀のアイスランドで編纂された。北方ゲルマンが語り継いできた伝説を、詩の形でまとめ上げたものである。「古エッダ(詩のエッダ)」と「スノッリのエッダ」の2種類がある。古ノルド語で書かれた。
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様々な種族
北欧神話には、神々の他にも様々な種族が登場します。
それは現代のファンタジー作品において、もはや定番とされている者たちです。
その原点であり起源として、見ることができます。
エルフ

森や泉などに住む、妖精の種族がエルフです。
北欧神話ではアールヴと呼ばれ、アールヴヘイムという世界に住んでいます。
若く美しい容姿で、不死または長寿とされます。また魔法を操ります。
現代におけるエルフのイメージは、J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』に大きく影響を受けたものです。
ドワーフ

地中に住む小人の妖精がドワーフです。
北欧神話ではドヴェルグと呼び、ニザヴェリールという世界に住まうとされます。
高度な鍛冶や工芸技能をもつとされ、様々な武器や魔法のアイテムをつくり上げました。
エルフと並び、『指輪物語』はじめ多くのファンタジー作品に登場しますね。
ドラゴン

世界中の神話に登場するドラゴン。
北欧神話においても、その存在は重要です。
ヨルムンガンドはじめ、ニーズホッグ、ファブニールといったドラゴンが登場します。
英雄シグルズ(ジークフリート)による竜退治が有名な物語です。
この物語はワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』でも扱われました。
また北欧におけるドラゴンは、単に邪悪なだけの存在ではなく、お守りのシンボルにもなります。
ヴァイキングは魔除けのために、船首に竜頭を掲げました。
アイスランドの国章に描かれている4体の守護者のうち、ひとつはドラゴンです。これはアイスランドの四方を、ドラゴン、雄牛、鳥、巨人が守護していると、サガに記された伝説に由来します。


エッダと共に、北欧神話の原典とされるのが『サガ』である。12世紀から14世紀頃のアイスランドで発展した、散文形式の長編文学である。古ノルド語で書かれた。エッダが神話を主な題材とするのに対して、『サガ』は歴史的な出来事を主な題材とした。
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神々の遣い
北欧神話の神々は、様々な遣いを連れています。
神獣や霊獣とも言える存在ですね。
彼らは神々の手足として働き、またそのシンボルにもされました。
スレイプニル

主神オーディンの愛馬がスレイプニルです。
8本の足で空や海を駆けることができ、また冥界と地上を行き来することもできます。
またロキの子どもでもあります。
あらゆる馬の中で最高の存在とされました。
北欧神話に登場する名馬は、スレイプニルの血を引いていることが多いです。
フギンとムニン

オーディンに仕える2羽のカラスが、フギンとムニンです。
それぞれ「思考」と「記憶」を意味します。
オーディンの命を受け、世界中を飛び回り情報を収集しています。
また人の言葉も理解できます。
ゲリとフレキ

オーディンに仕える2匹の狼が、ゲリとフレキです。
その名はともに「貪欲」を意味します。
オーディンの宮殿ヴァルハラにて、その足元にはべるとされます。
ワインしか飲まないオーディンに代わり、振る舞われる肉を平らげるとされます。

北方ゲルマンが使用していた、独自の文字体系がルーン文字である。北欧神話においては、オーディンが見出した呪力を持つ特別な文字とされる。愛のルーン、勝利のルーン、知恵のルーンなどがある。この文字を刻むことで、様々な効果を発揮するとされた。
タングニョーストとタングリスニル

雷神トールの戦車を引く2頭の山羊が、タングニョーストとタングリスニルです。
2頭の引く戦車は、凄まじい轟音と火花を散らします。
これは雷鳴と稲光の象徴とされます。
またトールによって食料とされても、骨と皮さえ残っていれば、次の日には蘇らせることができます。
グリンブルスティ

豊穣神フレイに仕える黄金の猪が、グリンブルスティです。
いかなる馬よりも早く空や海を駆け、毛皮は光り輝きます。
ドワーフにより生み出された、宝のひとつでもあります。

まとめ

北欧神話に登場する、怪物たちを紹介しました。
巨人、エルフ、ドワーフ。
まさに、ファンタジーの原点と言える存在ばかりです。
時代を越えて語り継がれてきたのは、それだけの価値や魅力を持っているからでしょう。
また知れば知るほど、様々な背景がわかって面白いですね。

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