油絵というのは、芸術において長らく中心的な役割を担ってきました。
特に西洋美術の絵画においては、まさに王道と言えるものです。
ですが、そもそも油絵とは具体的にどういうものなのでしょうか?
そこでここでは、その基本から歴史に至るまで、わかりやすく解説したいと思います。
あぶらえ【油絵 oil painting】
顔料を亜麻仁油その他の植物性乾性油を主成分とする展色剤で練り合わせてつくった絵具(油絵具)で描いた絵画。
世界大百科事典
油絵とは、油絵の具を用いて描かれた絵画作品のことです。
ルネサンスから現代に至るまで、西洋美術の中心的な存在でした。
そして一般的には、油絵の具やその描画技法のことも指して用いられます。
また油彩とも言います。
油絵の具は、顔料を乾性油(かんせいゆ)というオイルで練ったものです。
絵の具とは、顔料を何らかの媒体で練ったものなのですが、油絵はオイルを用いるという訳です。
この媒体のことを、展色剤とも言います。(さらに厳密に言うと固着剤)
ちなみに水彩はアラビアゴム、アクリル絵の具はアクリル樹脂、日本画は膠(にかわ)が展色剤になります。
それでは油絵の特徴を見ていきましょう。
美術の王道でいながら、とてもユニークで面白い画材ですよ。
ほとんどの絵の具は水で溶きますよね。
それが油絵では、絵の具を溶くのにもオイルを用います。
乾性油、揮発性油、乾燥促進剤が主なオイルです。
油絵では、これらを総じて画用液と呼びます。
また最近では、アルキド樹脂を原料にしたメディウムもよく用いられます。
油絵の特徴は、とにかく乾きが遅いことです。
他のどの画材と比べても、ダントツのぶっちぎりです。
指で触って大丈夫なくらい乾燥するまで、数日はかかります。
またこの性質によって、ぼかしの処理がしやすいです。
乾燥させている間に、別の作業を同時進行でするのがおすすめです。
ちなみに写実的な絵画に用いられる、非常に繊細なぼかしの処理を、スフマートと言います。
油絵は修正が簡単なのも特徴のひとつです。
絵の具が乾かないうちであれば、簡単にキャンバスから取り去れます。
一度描いた後でも、下地材で塗り潰せば、また新しく描くことが出来ます。
印象派に代表される様に、油絵は絵の具を厚く盛り上げて塗ることができます。
これにより存在感のあるタッチで、重厚な画面をつくり出せます。
これは油絵の具の特性によるものです。
他の絵の具とは、乾燥におけるメカニズムが異なるのです。
絵の具を厚く塗ることを、美術用語ではインパストと言いますよ。
油絵の具と水彩やアクリルでは、乾燥のメカニズムが異なります。
水で溶く水彩やアクリル絵の具は、水分が蒸発することで固まります。
水分が蒸発した分、乾いたあとでは絵の具全体の体積が減ります。
そのため、乾燥後は描いている最中と比べて、色合いや質感に変化ができます。
一方で油絵は、蒸発ではなくオイルそのものが酸化して固まります。
そのため、絵の具全体の体積は変わりません。
このため、油絵は乾燥しても色合いや質感が変わりません。
描いている最中の感じそのままで仕上がります。
体積が減らないので、量感やタッチを活かした厚塗りができる訳ですね。
油絵の入門書としては『油絵Style & Process』がおすすめです。
それでは、油絵の歴史をわかりやすく紹介したいと思います。
西洋美術史とも深く関わっていますよ。
油絵自体は、古くから利用されていました。
現存する最も初期の油絵は、意外なことにアフガニスタンのバーミヤンで発見された、仏教の壁画です。
およそ西暦650年頃のものとされています。
油絵はルネサンス期のヨーロッパで発明された、という記述をよく見かけますが誤りです。
油絵の技法は、ルネサンス期において大きく発展しました。
15世紀の芸術家ヤン•ファン•エイクが、その技法を発展•確立させたとされます。
そしてそれがヨーロッパ中に広まり、多くの芸術家たちが油絵による絵画作品を生み出していきました。
かくして以降の西洋美術においては、油絵がその中心的な存在となっていきました。
そして非常に写実的で繊細な表現が、アカデミーにおける主流となっていきます。
近代に入ると、絵画の制作において革命的なことが起こります。
それがチューブ絵の具の発明です。
今では絵の具はチューブ入りが当たり前ですが、近代以前はそうではありませんでした。
ルネサンスの頃の芸術家やその弟子は、絵画制作のたびに顔料を粉砕し、オイルで練り、絵の具を混ぜ合わせていたのです。
その後、絵の具の業者も現れ始めますが、皮袋に入った状態で売られていました。
このため絵画制作というのは、基本的に専門の工房やアトリエにおいて行うものでした。
それが19世紀に入りチューブ絵の具が発明されたことで、制作環境が大きく変化し始めたのです。
チューブ絵の具の発明により、芸術家たちは屋外制作が可能になりました。
画材を携帯して、様々な場所で制作を行ったのです。
まず写実主義•自然主義の芸術家たちが、あるがままの風景を描き出しました。
それは西洋美術における新たな潮流でした。
そしてその流れを汲んだのが、続く印象派の芸術家たちでした。
印象派では、一瞬一瞬の変化する色彩や動きを、キャンバスの上に表現しました。
油絵をその基本から詳しく紹介しました。
それは西洋美術における中心的な存在であり、名だたる巨匠たちが油絵を用いて数々の作品を作り上げました。
また油絵は、個性的な絵画技法でもあります。その名の通り、オイルで溶いて利用します。
油絵はその特性により、重厚で存在感のあるタッチで描くことができます。
西洋美術における、まさに王道であり、花形であると言えるでしょう。