アール・ヌーヴォーとは何でしょうか?
それは、19世紀末のヨーロッパから起こった、繁栄の時代を象徴する、華やかで優雅な芸術運動でした。
生命感に満ちたデザインが特徴的で、パリをはじめ様々な都市の景観の中にも見ることができます。
ここでは、そんなアール・ヌーヴォーをわかりやすく解説してみました。
歴史的な時代背景から、代表的な芸術家とその作品、また様々な文化的側面から紐解いています。
僕は大学で西洋史を専攻していました。西洋の歴史や文化なら任せてください。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、西洋ではアール・ヌーヴォーという芸術運動が起こりました。
またアール・ヌーヴォーとは「新しい芸術」を意味します。
花や植物などのモチーフ、自由な曲線の組み合わせ、鉄やガラスといった新素材の利用などが特徴です。
その影響は建築、工芸、グラフィックデザインなど多岐の分野に渡りました。
イギリスから始まった産業革命による工業化は、飛躍的な生産力の向上をもたらします。
しかしそれは一方で、効率化や画一化の推進でもありました。
長時間労働や低賃金といった問題を生み出し、その単調な無機質さは、人間性や創造性とは真逆のものでした。
この工業化による創造性の枯渇を危惧したのが、イギリスのデザイナーであるウィリアム・モリスでした。
モリスは、自然界のモチーフの研究、洗練されたフォルムへの回帰を追求し、アール・ヌーヴォーの運動の先駆けとなります。
工業化によって激しく変化する時代の中で、人間らしい生命感を取り戻そうとした運動だと言えます。
モリスの運動を先駆けとして、アール・ヌーヴォーは西洋諸国に広まっていきました。
モリスが中心に起こした運動を、アーツ・アンド・クラフツ運動と言います。
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アール・ヌーヴォーのスタイルは、ロココ様式の復興でもありました。
ロココとは、18世紀に貴族のサロン文化を中心に広まった芸術様式です。
曲線を多用した優雅なデザインが特徴で、アール・ヌーヴォーの原型とも言えます。
そのロココを基調としたデザインの復興が、フランスを中心として起こりました。
当時のフランスはパリを中心として、ベル・エポックと呼ばれる繁栄の時代にありました。
華やかな都市の文化が隆盛し、アール・ヌーヴォーはその流れと合わさり発展していったのです。
また、ロココは宮廷における貴族たちの文化でしたが、アール・ヌーヴォーは都市における市民たちの文化でした。
ヨーロッパの各都市には、アール・ヌーヴォー様式の建築物が、今でも多く残っています。パリやブリュッセルが代表的です。
19世紀の万国博覧会への出品をきっかけに、ヨーロッパでは日本文化が流行していました。
それがジャポニスムです。
浮世絵や屏風などの日本の美術品は、当時の市民だけでなく、芸術家たちにも非常に大きなインパクトを与えます。
有機的でシンプルなフォルム、自然をモチーフとしたデザイン。そうした要素が取り込まれていきました。
その影響が最も大きかった芸術運動が、印象派やアール・ヌーヴォーだったのです。
アール・ヌーヴォーは、その時代における様々な芸術文化に広まりました。
装飾を多用しながらもスッキリとしたデザインは、ロココの繊細さとジャポニスムが融合したものと言えるでしょう。
そうしたアール・ヌーヴォーの美術作品は、リトグラフによるポスターなどが代表的です。
アール・ヌーヴォーの代表的な芸術家には、ミュシャ、ロートレック、クリムトなどがいます。
アルフォンス・ミュシャ無くして、アール・ヌーヴォーは語れません。
その革新的で洗練されたスタイルによって、アール・ヌーヴォーを体現・象徴する存在です。
繊細優美かつ、大胆な画面構成が特徴的です。
自然や芸術など様々なモチーフを、優雅な女性の姿に擬人化させるなど、ユニークな手法を用いて表現を行いました。
ポスターなど、リトグラフによる作品が代表的です。
その卓越したデザインセンスと描写力によって、優れたアート作品を数多く生み出しました。
ミュシャの描く女性像は、非常に開放的で新鮮さを感じさせます。
活躍したのはフランスですが、チェコ出身の芸術家です。
ミュシャの作品は、まるで現代のアーティストが、コンピュータグラフィックスで描いたかのようです。
ミュシャは純粋な芸術としての絵画作品も制作しています。その代表が大作『スラブ叙事詩』です。故国チェコと、その民族であるスラブへの畏敬を表現したもので、全20作からなる巨大な絵画作品です。
アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックは、アール・ヌーヴォーで活躍したフランスの芸術家です。
少年期の事故により伸びなくなった、低い身長がトレードマークです。また、伯爵家という大変な名家の出身でした。
ロートレックは、これまでにない斬新で芸術的なポスター作品を生み出しました。
細部を排除した極端なデフォルメ、大胆でシンプルな構図や色使い。
これまでの伝統や常識に一切縛られない、自由で新しい表現方法でした。
それらは、日本の文化や美術が大きく影響しています。
ロートレックは、浮世絵をはじめ日本の文化に関心が強く、そこから強くインスパイアを受けていました。
そしてその作品は、キャバレーの文化などを中心に、都市に生きる人々を写し出すものでした。
ロートレックは、いわゆるモードなデザインの元祖とも言えるでしょう。
ロートレックを語る上で欠かせないのが「ムーラン・ルージュ」という、パリのモンマルトルにあるキャバレーです。ロートレックは、ここに通い詰め、踊り子たちをモデルに数々の作品を描きました。今日でもパリの観光名所で、夜にはショーを楽しむことができます。
ペン画の鬼才が、オーブリー・ビアズリーです。
アール・ヌーヴォーを代表する一人で、イギリスの芸術家でした。
グロテスク、退廃的、エロティックな雰囲気を持つ、独特のタッチの作品で知られます。
また浮世絵をはじめ、ジャポニスムの影響も強く受けていました。
オスカー・ワイルドやエドガー・アラン・ポーなど、人気作家の挿絵を数多く描きました。『アーサー王物語』の挿絵も有名です。
病弱ゆえに25歳の若さで亡くなりました。
グスタフ・クリムトは、アール・ヌーヴォーを代表するオーストリアの芸術家です。
象徴主義、ウィーン分離派といった所属でもあらわされます。
女性を主なモチーフに、装飾を多用した華やかで神秘的な作風が特徴です。
夢や神秘、生と死といったテーマをよく扱いました。
また、他のアール・ヌーヴォーの芸術家と同じく、クリムトも日本美術から強く影響を受けています。
その中でも、とりわけ琳派から最もインスパイアされたと言われています。
代表作の『接吻』をはじめ、金箔を多用したスタイルからも、それらが伺えます。
クリムトの作品は、まさに西洋美術と日本美術の融合と言えるでしょう。
アール・ヌーヴォーの芸術運動において、アイコン的な存在となったのが、フランスの舞台女優であるサラ・ベルナールです。ベル・エポックの時代を象徴する大女優で、「最初の国際スター」とも言われます。ミュシャの『ジスモンダ』をはじめ、多くの芸術家が彼女をモデルに作品をつくりました。
アール・ヌーヴォーをわかりやすく解説しました。
それは19世紀末から20世紀初頭にかけての、華やかで優雅な芸術運動でした。
産業革命から始まった工業化による、人間的な創造性の枯渇への反発でもあります。
そして、ベル・エポックという繁栄の時代にあったフランスを中心として、ヨーロッパ各国に影響を広めました。
芸術家たちは自由で開放的な作品を次々と生み出します。
そのスタイルや精神性は、現代においても影響を与え続けています。