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印象派とは何か?その本質をわかりやすく解説します!

そもそも印象派とは一体何でしょうか?

それは19世紀のヨーロッパで花開いた、革新的な芸術運動です。

印象派がつくり出した活気溢れる芸術文化を学ぼう!

それまでのアカデミーの伝統や常識を打ち破り、全く違う形での表現方法を確立したのです。

美術史上においても、非常に重要な転換点でありました。

ここでは、そんな印象派をわかりやすく解説していきます。

僕は大学で西洋史を専攻していました。西洋の歴史や文化なら任せてください。

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印象派とは何か?

ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』

19世紀後半のヨーロッパにおいて、これまでにない新しい芸術運動が起こりました。

瞬間の印象をとらえて表現するその特徴から、印象派と呼ばれることになります。

印象派を読み解くポイント
  • 瞬間的な光の印象をとらえた
  • アトリエを出て戸外制作を行った
  • 市民生活を描いた

それまでのアカデミーの伝統に縛られない、新しい芸術表現の開花であり、美術史においても極めて重要な変化でした。

その革新的な表現方法は、印象派の芸術家たちによって、確固たるスタイルとして確立していきます。

まずは、その特徴を詳しく見てみましょう。

『5分でわかれ!印象派』

瞬間的な光の印象をとらえる

モネ『積みわら、日没』

印象派と呼ばれるこの芸術様式は、光の分析からその変化に応じた色調の変化を表現しました。

一瞬一瞬の変化する光の印象です。

科学のめざましい進歩という時代背景とも重なり、芸術家たちは光の印象を巧みに捉えることに成功しました。

細部の正確さよりも、全体的な視覚効果を重視したものといえます。

正確で緻密なデッサンを重視するアカデミーの伝統とは、根本的にそのスタイルが異なるものでした。

それは瞬間瞬間の動きと色彩、それらを明るく変化させて表現される、いわば光の効果のアートです。

正確なデッサンよりも、目の前の景色が織りなす、光の印象を重視した訳ですね。

戸外制作による光の観察

ルノワール『アルジャントゥイユの庭で制作するモネ』

アトリエを出て戸外制作を始めたことも、印象派の大きな特徴です。

それまでの芸術家たちは、風景画でもすべてアトリエで制作していました。

その慣習にとらわれず、戸外の自然光の下で、光の効果を詳しく観察したのです。

肉眼が捉える主観的な光の印象を、そのままキャンバスに再現することを目指しました。

19世紀に入り、チューブ絵の具が発明されたことも大きな要因です。

市民生活を描いた

モリゾ『夏の日』

人々の実生活の様子を描いたことも、印象派の大きな特徴です。

写実主義や自然主義からの影響も引き継いでいました。

この時代は産業革命により、近代的な市民生活が形成されていった時期です。

その生活様式や暮らしぶりが、芸術表現にも大きく関わるようになっていったのです。

これは文化の中心が、王や貴族から市民へと移っていった、時代の変遷だと言えるでしょう。

ジャポニスムの影響
ゴッホ『タンギー爺さん』
モネ『ラ・ジャポネーズ』

19世紀中頃の万国博覧会への出品などをきっかけに、日本の文化がヨーロッパで注目を集めます。明治維新の前後、日本から大量の浮世絵、屏風、染め物などが欧米に流出し、大いにもてはやされました。これをジャポニスムと言います。当時の芸術家たちのインスピレーションに多大な影響を与えました。

『ジャポニスム 流行としての「日本」 (講談社現代新書)』

印象派を代表する芸術家たち

モネ『印象・日の出』

印象派の芸術家たちは、ロマン主義の豊かな色彩、自然主義の緻密な観察を受け継ぎ、更に新しい地平を切り開いていきました。

アカデミーの伝統に縛られず、自由で新しい芸術表現を確立していきます。

また歴史画や宗教画といった伝統的な題材ではなく、市民の暮らしや自然を描きました。

またフランスが印象派の運動の中心地でした。

代表的な芸術家は、マネ、モネ、ドガ、ルノワール、シスレー、ピサロ、ゴッホなどです。

マネ

エドゥアール・マネは、印象派の指導者ともいえるフランスの芸術家です。

それまでの美術界の伝統や常識にとらわれず、自由で大胆なタッチで作品を描きました。

『草の上の昼食』、『オランピア』といった作品が、当時において論争を巻き起こしました。

マネを中心として、その後の印象派を担う若手芸術家たちが集い、交流を深めました。

また、印象派を代表する女性芸術家のベルト・モリゾは、マネの弟子であり作品のモデルもよく務めました。

マネは文豪ゾラとも親しく、その肖像を描いています。

『笛を吹く少年』
『エミール・ゾラの肖像』
『すみれの花束をつけたベルト・モリゾ』
『オランピア』
『鉄道』
『フォリー・ベルジェールのバー』

『マネへの招待』(朝日新聞出版)

カフェ・ゲルボワ
『カフェにて』マネ

カフェ・ゲルボワは、19世紀のパリにあったカフェで、当時の芸術家たちが集い交流する場でした。マネを中心に、モネ、ドガ、ルノワール、バジール、シスレー、ピサロなどそうそうたる顔ぶれが揃います。画家だけでなく、文豪ゾラや写真家ナダールなど、様々な文化人が集いました。

モネ

ルノワールによる肖像

クロード・モネは、印象派を象徴するフランスの芸術家です。

その作品『印象・日の出』が、印象派の名前の由来にもなりました。

モネは特に戸外制作を重視しました。

固有色ではなく、光の変化を受けて目に映る「印象」をキャンバスに再現することを追求します。

季節、天候、時刻など、その瞬間ごとに変わる景色の様子をとらえようとしたのです。

物体というより光そのものを主役として、明るく臨場感のある作品をつくり出しました。

モネの作品は、どことなくジブリっぽい雰囲気があります。

『パラソルをさす女性』
『日傘をさす女性』
『サン・ラザール駅、列車の到着』
『サン・ラザール駅』
『エトルタの断崖』
『かささぎ』
『アルジャントゥイユの橋』
『アルジャントゥイユのレガッタ』
『積みわら、夏の終わり』
『積みわら、雪と日光の効果』

『モネへの招待』(朝日新聞出版)

バティニヨール派とゾラ

カフェ・ゲルボワに集った芸術家たちを、その地区名にちなみバティニヨール派と呼びます。その中の一人であった文豪ゾラは、美術評論家でもあり、印象派の独創性にいち早く気づいていました。当初こそ印象派は、社会から誹謗の声ばかり浴びました。そんな中でもゾラは、熱心にその価値と芸術性を擁護しました。

ドガ

自画像

エドガー・ドガは、印象派を代表するフランスの芸術家です。

戸外制作を特徴とする印象派の中で、ドガは室内における都市生活の様子を中心に描きました。

何気ない一瞬の表情や、その場における空気感を切り取って表現することに、卓越したセンスを持っていました。

また、パステルを用いた描画も特徴的です。

バレエをテーマに扱った作品が多く、舞台裏での踊り子たちの姿をありのままに描きました。

ドガは裕福な生まれで、オペラ座の会員でした。そのため楽屋や稽古場に自由に入れました。

『オーケストラの音楽家たち』
『舞台の踊り子』
『三人の踊り子』
『バレエ教室』
『バレエの舞台稽古』
『浴盤』

印象派の女性芸術家たち
『ゆりかご』モリゾ
『サマータイム』カサット

印象派では女性芸術家も活躍しました。その代表がベルト・モリゾならびにメアリー・カサットです。当時の女性の生き方、家族の様子などを豊かな感性で描き上げました。

ルノワール

バジールによる肖像

ピエール・オーギュスト・ルノワールは、印象派を代表するフランスの芸術家です。

モネやピサロらと共に、印象派の芸術運動の中心を担いました。

柔らかなタッチで、いきいきとした市民生活を描き出しました。

印象派の様式だけでなく、生涯に渡り様々な画風の変遷を見せます。

その自由でのびのびとした作風は、その後の芸術家たちにも大きな影響を与えました。

ルノワールは、モネやバジールやシスレーなど、仲間の様子もよく描いています。

『じょうろを持つ少女』
『二人の姉妹』
『陽光の中の裸婦』
『踊り子』
『水辺にて』
『舟遊びをする人々の昼食』
『ポンヌフ』

『はじめてのルノワール』

バジールと印象派
バジール『バジールのアトリエ』

フレデリック・バジールは、印象派の中心を担ったフランスの芸術家です。裕福な生まれで経済的余裕があったため、絵を買ったり、自分の借りたアトリエを使わせたりして、仲間の芸術家たちを支援しました。普仏戦争に志願し、28歳の若さで戦死します。

シスレー

ルノワールによる肖像

アルフレッド・シスレーは、印象派を代表する芸術家でフランス生まれのイギリス人です。

モネやルノワールらと共に、印象派運動の中心人物でした。

大胆でのびのびとしたタッチで、あるがままの日常の風景を鮮やかに描きました。

その作風はモネと並び、印象派のスタイルを最もよく表していると言えます。

シスレーは、その作品のほとんどが風景画なのが特徴です。

『サン・マルタン運河の眺め』
『ボアシンの霧』
『ラングランドの海辺』
『森へ向かう女たち』
『モレの教会』
『ハンプトン・コートの橋の下』
『ヴィルヌーヴ・ラ・ガレンヌの橋』

ピサロ

自画像

カミーユ・ピサロは、印象派を代表するフランスの芸術家です。

モネ、ルノワール、ドガ、ピサロなどと印象派の芸術運動を主導しました。

スーラやシニャックと共に、点描を用いた新印象派にも一時加わります。

農村と都市それぞれの風景を、あるがままに描き上げました。

ピサロの作品は、やや高い目線から俯瞰したものが多いです。

『田舎の幼い女中』
『カフェ・オレを飲む若い農婦』
『春の朝のモンマルトル大通り』
『夜のモンマルトル大通り』
『ジャレの丘』
『ルーヴシエンヌのヴェルサイユに向かう道』
『クリスタルパレス』
『果樹園』

新印象派
スーラ『グランドジャット島の日曜日の午後』

スーラやシニャックといった芸術家が確立した、点描画法による新しいスタイルを新印象派と言います。鮮やかな色彩の点描によって、画面を構成するスタイルです。

ゴッホ

ラッセルによる肖像

印象派を代表するオランダの芸術家が、フィンセント・ファン・ゴッホです。

ゴーギャンやセザンヌらと共に、ポスト印象派とも呼ばれます。それまでの印象派とは異なる芸術表現を生み出しました。

あるがままの現実の上に、自身の心から湧き出る印象を乗せて描いたのです。

写実性よりも、自己の感覚的なイメージを表現することを重視しました。

強烈な色彩と、荒々しく大胆なタッチが特徴です。

ゴッホの切り開いた芸術表現は、後のフォービスムにつながっていきました。

そして、その後の多くの芸術家に影響を与える存在となりました。

ゴッホは美術史上でも、最も有名な芸術家と言えるでしょう。

『『ひまわり』
『自画像』
『自画像』
『自画像』
『郵便夫ジョゼフ・ルーラン』
『医者ガシェの肖像』
『二本の糸杉』
『夜のカフェテラス』
『アルルの跳ね橋』
『黄色い家』
『夜のカフェ』
『星月夜』

ゴッホと芸術家たち

ゴッホは今でこそ有名ですが、当時の社会的な評価は、ほとんどありませんでした。しかし、同時代の芸術家たちは、ゴッホの存在感や才能に気づいていました。同時代を生きたゴーギャン、ロートレック、ラッセルなどが、ゴッホの肖像を描いています。

歴史や文化もわかる 西洋美術史の教科書

まとめ

印象派という芸術運動を、詳しく紹介しました。

それは美術史上においても、非常に重要な転換点でした。

伝統や常識に縛られない、自由で革新的な美の追求です。

そして現代において、印象派は最も有名で、人気のある芸術様式のひとつとなっています。

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